住居やオフィスを賃借し、退去する時には部屋を元の状態に戻さなくてはいけません。これを「原状回復義務」といいます。
基本的に借りた方に原状回復の義務があります。
ただし、全く傷のないまっさらな状態に戻すという意味ではありません。
原状回復義務をめぐるトラブルは非常に多く発生しています。
トラブルにならないように原状回復の範囲やどういう時に借主負担となるのか参考にしてください。
借主に原状回復義務があるとはいえ、借主の責任の範囲を超える部分については費用を負担する必要はありません。
借主の不注意や故意につけた傷等については借主負担となるものの、経年劣化や通常の使用でついてしまう傷等については貸主負担となります。
原状回復の範囲やどういう時に借主負担となるのか等解説します。
≡賃貸物件の原状回復とは元の状態に戻すこと≡
賃貸物件の原状回復とは、その部屋を使い始めた時の状態に戻すことです。賃貸借契約書にも明記されている通り、できるだけ元の状態に戻して退去するようにします。
とはいえ入居した時と全く同じ状態にするということではありません。
生活していれば壁紙の日焼けや、何かを壁に貼ったことでついた日焼け跡等、通常の損耗によるものは原状回復の義務は発生しません。また、普通に生活していてできた傷等の回復費用についても支払う義務はありません。
家具を置いていたことによるへこみや変色は通常使用の範囲内ですが、引越しの時についた傷などは借主の負担となります。
≡賃貸の原状回復の範囲≡
国土交通省から「現状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針が出されています。
かつては貸主と借主の間でトラブルになることが多かったのですが、より細かく道理にかなった範囲で原状回復を請求できるようなルールが備えらえるようになりました。
1998年に出されたこのガイドラインにより線引きが明確になりました。
基本的な考え方として、ガイドラインに記されているように借主が故意、過失、通常の管理注意義務を怠ったり、常識の使用範囲を超えるような方法で使用し、損失が生じた場合に請求されることとなります。
【貸主負担】
□経年劣化:壁紙の日焼け、黄ばみ
プラスチック製品の黄ばみ
□通常損耗:普通に生活していく上でついてしまった床の傷など
【借主負担】≡故意・過失による傷等は借主負担≡
通常の使用の範囲を超える損傷は借主負担となります。
例えば、タバコのヤニで壁紙が黄ばんでしまったり、壁に落書きをして落ちなくなってしまった場合、トイレやお風呂のカビや水垢などを適切に清掃しなかったために起きる損害等は、通常の使用とは認められず借主負担となります。
▪結露を放置したことによってついたカビ
▪模様替え等で家具を移動させたことによる床の傷
▪食べ物等をこぼしてできた汚れ
▪ペットがつけた傷等
日頃から注意していれば防げた損耗については、特別損耗とみなされて費用は借主の負担となります。
≡原状回復のトラブルを防ぐために≡
最もトラブルになりやすいのは、その損傷が通常の使用でできたものかどうかという点であり、どちらが費用を負担すべきかで争いが生じます。
トラブルにならないようにするためには、入居時と入居中には以下の点に気をつけるようにしてください。
*契約書を隅々まで確認すること
「特約事項」に書いてある場合は、国土交通省のガイドラインよりもその特約事項が優先されることがあります。
例えば、ハウスクリーニング代・壁紙や畳の張替え代等を全額借主負担とする場合があります。契約書に明記されていて、借主が納得してサインをしたのであれば有効となってしまいます。
貸主として、必要な特約を明文化して契約に盛り込むことは有効です。ただし、通常損耗の原状回復費用までも借主負担とする内容は、借主が納得していなければ効果は及びません。
〈特約に関する事例〉
借主がハウスクリーニング代を負担するという特約を盛り込んだ賃貸借契約を締結。退去時に、特約に基づいたクリーニング代のほか、通常の使用を超える損耗の原状回復のための内装工事費、内装工事終了時までの2か月分の賃料等を貸主から敷金から差し引くといわれたが、納得がいかない。
→対応
このケースでは、ハウスクリーニング代は借主が納得の上契約に盛り込まれているので、借主の負担とされました。
*入居前の部屋のチェック
入居時の状態を確認しておくことが重要です。できれば壁や床等の写真を撮っておくといいでしょう。そうすれば退去時の状態と比較することができます。
*掃除はこまめにすること
結露によって生じたカビやこぼした食べ物をそのまま放置してできたシミなどは、掃除をこまめにしていれば防げた損傷なので借主の負担となります。マメに掃除をするように心がてください。
*まずは貸主に相談・確認すること
壁にカレンダーをかけるために開けた画鋲などの穴は貸主負担となりますが、洋服をかけるフックを設置するために開けたネジ穴は借主の負担となります。
後でトラブルにならないために、まずは貸主に穴を開けることの了解を取り、その上で原状回復はどうするか事前に話し合っておけば退去時のトラブルを防ぐことができます。
また、汚れがひどくなるなような状況になったり、何らかの設備を取り付ける時などは、必ず相談するようにしましょう。
原状回復にかかる費用は部屋の広さによっても違ってきますが、通常の範囲内であれば敷金から差し引かれます。
家を借りるときには、退去するときのことまでなかなか考えないことかもしれません。
しかしながら、退去するときのことを考えて住むことにより、いつかくる退去時の原状回復の問題を小さなものにすることができます。