立ち退きを求めるには正当事由が必要
土地や建物の賃貸借契約において、賃貸人(貸主側)の都合で賃借人(借主側)へ契約解除を求めることは容易ではありません。借主に立ち退きを請求する際は、貸主側に正当事由が必要となります。
正当事由のない立ち退き請求は借主が拒否する限り認められませんが、どのようなことが正当事由として認められるのかは不動産問題に詳しい弁護士などの専門家でもない限り理解することは難しいものです。
貸主が借主に対して立ち退きを請求する際に必要となる正当事由についてわかりやすく解説します。
立ち退き交渉は契約期間満了の1年前~6ケ月前に行なうのが原則
貸主の都合で立ち退きを求める場合は、賃貸契約の契約期間満了の1年前から6ケ月前までに勧告をし、交渉を始めなければなりません。
借主としては次の住居(店舗)を探すための猶予期間ともなるわけですが、立ち退き交渉はあくまで交渉です。
正当事由があれば立ち退いてもらえるわけではなく、正当事由があっても立ち退き要求が認められない場合もあります。
正当事由の詳細については借地借家法28条に詳しく定められていて、正当事由の要因を5つに分けて総合的に判断されることになります。
1)賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
2)建物の賃貸者に関する従前の経過
3)建物の利用状況
4)建物の現況
5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、または建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
1)賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
建物を使用する必要性について賃貸人(貸主)と賃借人(借主)双方の言い分を比較衡量(対立する当事者の権利・利益を天秤にかけどちらがより重いかを判断)します。
[貸主の立場]
・居住・営業の必要性
・建替え・再開発の必要性
[借主の立場]
・居住・営業の必要性
・特に転居することで長年の顧客を失い、従来のような経営ができなくなるリスク
2)建物の賃貸者に関する従前の経過
貸主と借主の間の賃借契約における今までのやり取りや経緯など全般を意味します。
・賃貸借契約締結時の経緯・事情・その後の変更の有無
・賃料額を取り決めたときの経緯・事情・その後の改定の状況
・当事者間の信頼関係が壊れていないか・破綻の有無
・賃貸借契約締結後どの程度期間が経過しているか
・賃貸借期間中の借主の契約上の支払い履行状況
3)建物の利用状況
・借主が契約に定められた目的に従って建物を使用しているか(建物の用法違反となるような使用はしていないか)
・借主がどのくらいの頻度で建物を利用しているか
4)建物の現況
・建物がどの程度老朽化しているか(経過年数・残存耐用年数)
・補修をするために費用がどれくらいかかるのか(大修繕の必要性・修繕費用)
・建物が存在する地域における土地の標準的使用に適した建物であるか
5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件としてまたは明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
・一般的には賃貸人から賃借人への立ち退き料の提供を指します。
*5つの要因の中でもっとも重視されるのが1)賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情です。
よく勘違いされることは、立ち退き料さえ払えば正当事由は認められるということです。
立ち退き料は1)~4)によって正当事由がある程度認められる場合に、立ち退き料を支払うことで正当事由が認められます。
正当事由がなくても十分な立ち退き料を提示することで交渉可能
立ち退いてほしい理由だけでは正当事由にならないケースもあります。
そのような際は十分な金額の立ち退き料を用意することで正当事由として認められる例もありますので、立ち退き料の金額は正当事由を認めるかどうかの重要な判断材料となります。
実際に支払われる立ち退き料は、立ち退きを求める理由や貸主および借主の事情によって大きく変動しますので立ち退き料はこれ以上の額でなければならないという法律上の規定やルールはありません。
立ち退き料の事例はケースバイケースのため明確な相場はないので、実際に立ち退きを要求する際は不動産問題に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。
借主に過失がある場合は立ち退き要求が認められる可能性がある
貸主の都合による立ち退き要求の場合はどうしても貸主側の立場が弱くなります。
立ち退きを求める理由が借主によるものであれば(借主に過失がある)立ち退き要求できる場合があります。
1)借主が家賃を滞納している
家賃の滞納がある場合は立ち退きというよる強制退去となり、立ち退きを要求できます。
ただし、家賃滞納の理由が失業や病気などの理由によるもので世間的にみても止むを得ない事情とみなされる場合は、立ち退き要求が認められない場合もあります。
お金を持っているのにあえて払わないというような悪質なケースであったり、話し合いや交渉に長期間応じない場合は、最後の手段として強制退去を要求できます。
2)騒音や悪臭を発生させるなど迷惑な借主である
騒音や近隣トラブルは重合住宅や住宅密集地であれば頻繁に起きることですが、早朝深夜を問わず大音量で音楽を流す、あえて騒音を生じさせるような行為を繰り返すなど、騒音が常軌を逸していて近隣住民が深刻な被害を被るようであれば立ち退きを要求する正当な事由となります。
立ち退きが認められるには客観的な証拠が必要となるため、複数名の近隣住民による証言や録音、録画など状況を記録しておくことが必要です。
悪臭が原因で立ち退きになるのは物件がゴミ屋敷化していて、近隣住民にとって苦痛となるような場合のみで非常に稀なケースとなります。
3)賃貸借契約違反がある
賃貸借契約には物件を使用するにあたりさまざまな規定が定められています。
例えば第三者へ転貸してはならない、他人を住まわせてはならないなどがあり、借主がこのような規定に違反していて再三の警告にもかかわらず改善がみられない場合は、立ち退きを要求する正当な事由となる場合がありますが、この点については借主の悪質性が認められない限りは実際に立ち退かせることは困難です。
4)そのほか借主の悪質な行為がある場合
近隣住民や貸主に対して暴力をふるおうとしたり、脅迫まがいのことをする借主がいた場合、どんな事情があろうと許されることではなく当然立ち退きを求めることができますが、身の危険があるのでこのような場合は警察や弁護士などと協力するように
してください。
まとめ
正当事由の有無は裁判所が双方の主張・立証を総合的に判断し判決を下すことになります。
借主のなかには正当な事由や自分の過失による立ち退き要求でもなかなか応じない人も多くいますし、できるだけ立ち退き料を増額させようとする借主もいるので、貸主だけで交渉を続けても話し合いがまとまらず借主との関係が険悪になってしまう場合もあります。
借主からみて弁護士は第三者なので感情的にならず冷静に交渉を進めることができ、早く決着がつきます。
立ち退き交渉はこじれてしまう前に弁護士へ相談するようにしてください。