家や土地を売却する際に大きな影響を与えるのが立地です。
立地とは利便性のことをいいますが、利便性とは別に土地の区分区域による影響もあります。
利便性の良い市街地から離れ郊外や田舎に向かうほど地価は下がる傾向にあります。
日本の国土には山林や農地を守るために開発が規制されているエリアがあり、そのような地域は市街化調整区域という地域になります。
市街化調整区域とは市街化を抑える区域、人が住むためのまちづくりを行う予定のない区域のことです。
市街化調整区域に対してすでに市街化している区域や、今後市街化を図る予定の区域のことを市街化区域といいます。
市街化区域と市街化調整区域に分けることを区域区分(線引き)といい、市街化する範囲を限定することにより無秩序な市街化を防止することを目的としています。
市街化調整区域
・市街化区域
市街化区域は人が住みやすくなるような市街地形成の計画のために用途地域に基づいて建物が建てられ、都市基盤やインフラの整備が行われています。
・市街化調整区域
山林や田畑を保全するために開発が規制されています。
都市施設の整備も原則行われません。
・非線引き区域(区域区分が定められていない都市計画区域)
都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に分けることを区域区分や線引きといい、現状どちらのエリアにも指定されていません。
都道府県の指定する都市計画区域の中で行われている3つの区域区分のうちのひとつであり、都市計画法で定められた「市街化を抑制すべき区域」のことです。
市街化とは街づくりのことを指します。
街づくりでは建物を建てて人が住んだり働いたりする場所を作り出します。
一方市街化調整区域ではその街づくりを抑制しているエリアであるため、建物を建てることが制限されている地域になります。
市街化調整区域の最大の特徴は都市部である市街化区域と隣接しているという点です。
市街化区域とはすでに市街化を形成している区域またはおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域を指します。
市街化区域は市街化調整区域とは反対にどんどん街づくりをしてくださいという区域です。
市街化区域は人が多く住む都市部に指定されています。
市街化調整区域と市街化区域を分けることを「線引き」といい、市街化調整区域は市街化区域と隣接した地域であり、全国の政令指定都市や中核市の中に存在します。
市街化調整区域の周辺には多くの人が住んでおり決して不動産需要が低いエリアではありませんが、市街化調整区域の不動産には売却しずらい理由があります。
売却を検討している土地が市街化調整区域である場合、住宅地の土地とは異なるポイントがあるので注意が必要です。
市街化調整区域の土地を手放す際の注意点や売却方法、また売却が難しい場合の土地活用について解説します。
市街化調整区域の不動産が売却しづらい理由
市街化調整区域はすぐ隣が人口の多い市街が区域であるため、不動産の購入需要は高まるように思えますが、実際には市街化調整区域の不動産は売却しづらく、理由としては原則建物が建てられないからです。
市街化調整区域内で建物を建てるには開発許可と呼ばれる許可が必要となり、市街化調整区域における開発許可の要件は厳しく、簡単には建物を建てることができません。
市街化調整区域の不動産を購入しても自由に建物を建てることができないことから、需要者が少なくなり結果的に売却しづらくなっているのです。
市街化調整区域でも売却しやすい不動産
市街化調整区域は周辺の市街化区域に多くの人が住んでいることから、利用価値のある不動産は比較的売却しやすくなっています。
◆開発許可を取得して建てられた建物が存在する不動産
工場や倉庫など開発許可を取得して建てられた建物が存在する不動産は、市街化調整区域内で合法的な手続きを経て建てられた建物であり、同規模・同用途の建物であれば将来的に再建築が可能です。
同じ用途で同規模の大きさであれば取得後建て替えが可能ですので、開発許可がとってある建物は相対的に価値が高まります。
◆60条証明によって建てられた建物が存在する不動産
60条証明とは都市計画法の開発許可を要しない計画に適合している証明のことを指します。
具体的には農家住宅や農林漁業用建築物、日常生活用品の販売・加工等の業務用の建築部等が該当し、これらの建物が建っている不動産の土地はすでに宅地となっているので新たに開発許可を取得する必要がないため、すでに宅地利用されている土地であれば都市計画法第34条に該当する建物であれば建てることができます。
都市計画法第34条に該当する建物として、具体的にはガソリンスタンドやコンビニエンスストア、レストラン等の日常生活のため必要な店舗があります。
都市計画法第34条に該当する建物を建てる場合でも、都市計画法第34条による建築許可は必要です。
◆開発許可が得られる可能性のある土地
都市計画法第34条により、以下の条件にあてはまる場合は都道府県の条例などに基づいて開発許可を得ることができるとされています。
各市区町村の都市計画課や町づくり推進課で確認すれば開発許可が受けられる土地かどううかがわかります。
開発許可が得られるかどうかは、都市計画法第34条により立地基準が定められていて、例えば市街化区域に隣接し、自然社会的諸条件から市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められる地域であって、おおむね50以上の建築物(一般的に市街化区域内に存するものを含む)が連坦している地域であれば、開発許可を受けられる可能性があります。
・市街化区域に隣接している
・市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められる
・市街化区域内にあるものも含み、おおむね50以上の建築物が建てられている
以上のように再建築できる土地や新たな建物を立てやすい土地、開発許可が得やすい土地等は利用価値が高いため、市街化調整区域内でも売却しやすくなります。
市街化調整区域で特に売却しにくい不動産
◆農地
農地を農地以外にするには、農地法による転用許可が必要です。
農地法により農地の売却について規制しているため、農地転用を行う場合は農地法と都市計画法両方の規制を受けるため売却しづらくなります。
市街化調整区域の農地は農地法と都市計画法によるダブル規制を受けるため、売却しにくい不動産となります。
◆開発許可が得られない土地
市街化調整区域内には基本的に建物が建ちません。
都市計画法第34条により定めれた立地基準を満たさない土地は、売却がしにくくなります。
資材置場や駐車場として利用するなどの制限がかかるため、住宅を建てることができないのであれば利用価値が下がることになり売却しづらい物件となります。
市街化調整区域ではほとんどの立地が都市計画法第34条の立地基準を満たしておらず開発許可が得られない可能性が高いため、市街化調整区域の更地は売却がしにくい不動産となっています。
◆無許可の建物
市街化調整区域内では農家の住宅や温室などは許可がなくても建てることが可能です。
反面通常の住宅などには行政の許可が必要ですが、無許可の建物もあります。
無許可の建物は建て替えすることができないため売却がしづらくなります。
市街化調整区域における建築の制限
市街化調整区域は都市化を抑制する地域であり、建物を建てるには都道府県に開発許可を受ける必要があります。
市街化調整区域における開発許可の基準は都市計画法第34条に示されていて、既存の住宅の建て替えにも制限があります。
都市計画法第34条に基づいて個別に自治体に審査してもらい、開発許可を得る必要があります。
*現在家が建っていても第三者が購入する場合、売買できるかどうか役所の許可が必要
*家を建てて良い地域ではないので、新築やリフォームでも役所の許可が必要
*許可が出るかどうかは個別ごとの審査となり、買主の建てたい建物やリフォームの詳細な内容が事前に必要
市街化調整区域で農業・林業・漁業を営む人の住居は開発許可なく建築することは可能ですが、以下の場合は建築許可を得て行うことが可能です。
・既に住んでいる農林漁業従事者の家族が自宅を建てる
・住宅兼用店舗(地域の住民のために有益と認められる場合)
・既存住宅の建て替え
市街化調整区域の土地評価
近隣の市街化区域の土地と比べると固定資産税評価で通常の2割~3割ほど評価が低くなります。
市街化調整区域内ではインフラの整備も積極的に推進されていないため、住居を建てる際には所有者が電気やガス、水道などのインフラ設備の負担をしなければならない場合があります。
またスーパーやコンビニといった商業施設が遠かったり、商業施設がないといった環境のため需要も少なく価格が下がりやすい傾向にあります。
市街化調整区域にある土地や建物の購入で住宅ローンを組む際、融資の審査が厳しくなることが多くあります。
建築や活用にさまざまな制限がある市街化調整区域では不動産の担保価値が低くなり、万一滞納で差し押さえになった場合でも売却をしづらいことから金融機関は市街化調整区域の不動産の住宅ローンには消極的なため、住宅ローンの審査に通らないこともあり結果として売却がしづらくなります。
市街化調整区域を売却しようとする前に確認しておくこと
市街化調整区域内の土地は利用の制限が大きいため、どのような土地を売却しようとしているのかを売却をする前に確認しておきます。
◆自治体の区域指定制度を確認する
2000年に都市計画法の改正により区域指定制度が導入され、市街化調整区域であっても自治体が指定した区域内の土地に限っては、誰でも住宅や店舗・事業所の建築の許可を得ることができる制度です。
売却したい土地が区域指定されているエリアにある場合は、比較的土地の利用度が高くなるので売却しやすくなります。
自治体のHPなどを確認してその土地が区域指定されているか確認してください。
区域指定されるためには
・隣の敷地との距離が50m以内の建物が40戸以上ある
・市街化区域に隣接している
・上下水道などが適切に配置されている・・・
など自治体によりさまざまな条件があります。
◆土地の地目を確認する
土地の地目は田・畑・宅地・山林・雑種地など23種類に区分されています。
地目が農地の場合、売却する際に農業委員会の審査と許可が必要となり、また実態のある農業従事者にしか売却することができません。
農地以外の用途で土地を売却したい場合には、農地転用をしなくてはなりません。
農地転用も農業委員会に申請を行い都道府県知事の許可を得る必要があります。
登記上の地目が市街化調整区域に指定される前から宅地であるなら、開発許可や建築許可が不要なため売却がしやすくなります。
◆建物が建っている場合、市街化調整区域に指定される(線引き)前からあるか
線引きの時期は自治体のHPで確認することができます。
また固定資産税評価証明書や公課証明書で確認することも可能です。
都市計画法は昭和43年に制定されたため、昭和45年前後に線引きが行われたケースが多いです。
・線引き前の建物
もともとそこに建っていたものなので売却には許可は必要ありませんが、用途(住宅なら引き続き住宅)や敷地面積が同じで規模が同規模(延べ床面積が1.5倍まで)など条例により建て替えに関する基準が設けれられています。
注意すべき点として、線引き後に建て替えを行っていないかどうかということです。
すでに線引き後に建て替えを行っていた場合その建物は線引き後の建物として取り扱われることになります。
・線引き後の建物
線引き後に建てられた建物は開発許可を受けて建設されています。
農家であることを理由に建てている住宅など使用者制限のある建物である場合、権利を引き継げるのは許可を得た人の相続人や近親者のみとなり、新たに購入しようとする買主は申請をして使用者制限の解除ができなければ購入することはできません。
さらに所有者変更の許可が下りても建て替えや増改築を行うための申請は購入後買主が行わなければなりません。
建て替えや改築を行えないリスクを買主が負うことになるので該当する場合は売却が難しくなります。
市街化調整区域の物件を売却するコツ
市街化調整区域における売却のコツは、買ってくれそうな人を絞ることがポイントです。
◆農家
農家の人であれば開発許可を受けずに自宅を建てることができるため、購入する可能性があります。
◆隣地所有者
先ずは隣地の所有者に売却を打診してみることをおすすめします。
隣家に家族や親族が住むという理由なら許可がおりる可能性が高くなります。
◆周辺で商売を行っている人
従業員用や来客用の駐車場が欲しい等といったニーズがあるため、購入する可能性はあります。
◆現在の建物をそのまま使う人
建物が建っている不動産であれば現在の建物をそのまま使ってくれる人なら購入してもらえる可能性があります。
◆専門の仲介業者へ依頼する
市街化調整区域の物件の売買を専門に扱う仲介業者は売買実績がありノウハウに長けています。
新築が許可されにくい土地や建て替えの許可がされにくい家でも、資材置場・駐車場・太陽光発電など土地の活用方法や独自の売却ルートを持っている可能性も高くあります。
売却が難しい場合は活用方法についても相談してみましょう。
◆空き家バンクに登録する
近年自然が多い環境へ移住を希望する人たちが増加しています。
売却を希望する地域が移住者向けの空き家バンクのサービスがある場合には登録をして売却先を探すことも可能です。
◆賃貸に出す
売却が難しい場合は賃貸に出すという方法もあります。
建物が古くても手入れが行き届いている物件であればそのような物件を好む人もいるでしょう。
土地の場合でしたら資材置き場や駐車場として賃貸に出すことも可能です。
売却できない時の活用方法
市街化調整区域の土地が売却できない場合は、駐車場(コインパーキング)で活用することがおすすめできます。
市街化調整区域は周辺に人口が多い市街化区域があるので、駐車場のニーズもそれなりにあり、駐車場は建物を建てる必要がないことから開発許可は不要であり、市街化調整区域でもできる土地活用です。
また、市街化調整区域の不動産の売却には時間がかかるため、売却できるまでの間駐車として運用することで維持費の負担も軽くすることができます。
市街化調整区域を売却する基本の流れ
(1)行政調査を行う
不動産会社に物件の査定を依頼すると不動産会社は役所等にヒアリングを行う行政調査を行いますので、合わせて自分でも行政に問い合わせることで、売却したい物件がどのような条件になっているか情報を得ることができます。
(2)買取業者へ問い合わせる
市街化調整区域の売却は難しい場合が多いため買取業者に問い合わせて買取価格について確認してみるのもおすすもです。
価格は通常の売却価格の8割程度となりますが、すぐに売却できるというメリットがあります。
(3)仲介業者へ依頼する
仲介業者を通じて売却する場合は地元の市街化調整区域の物件の取扱いに慣れている仲介業者を選ぶようにしましょう。
その際1社の不動産会社にしか仲介を依頼できない専任媒介契約がおすすめです。
複数の不動産会社に仲介を依頼する一般媒介契約では、仲介会社が売却にやる気を見せない場合もあります。
また、自分で買主を見つけられる自己発見取引が認められない専属専任媒介契約より、自己発見取引も可能な専任媒介契約を選ぶようにしましょう。
(4)売却条件を決定する
仲介業者へ正式に依頼をしたら売却価格を決めて売り出しを開始します。
(5)買主が見つかれば売買契約を結ぶ
買主がみつかり諸条件がまとまれば売買契約を締結することとなります。
まとめ
市街化調整区域は建物の建築を制限されている地域のため売却しづらいといわれているため、先ずは所有している物件がどのような状態にあるのか確認してください。
売却するためには、市街化調整区域の売買に強みのある不動産会社を選ぶことが重要です。